3.10. スタンプで描画 (クローン)

図13.73 ツールボックス上のスタンプで描画ツールアイコン

ツールボックス上の「スタンプで描画」ツールアイコン

スタンプで描画ツールは画像や文様を現在のブラシで転写するためのものです。 使い道はたくさんありますが、 最も重要なのがデジタル写真の不味い部分を周辺部分の画素情報 (ピクセルデータ) を用いてハメ込み修復することです。 この技法は習得するまで少々時間がかかりますが、 ひとたび身に付ければ非常に頼もしいものです。 その他、 直線や曲線の上をパターン (文様) で描画することも重要な使い道です。 パターン にその例があります。

パターンを用いず画像から転写するためには、 画像のどの部分をタネにするかをGIMPに教えなければなりません。 そのためには参照される画像の位置で Ctrl キーを押しながらクリックします。 この作業を済まさなければスタンプで描画ツールで描画することは不可能です。 ツールのカーソルの姿が に変化してその状態を示します。

パターンを用いて転写すると、 パターンは タイル状に 繰り返されます。 つまり、 転写参照位置は転写元の画像の端を過ぎるとふたたび元画像の反対側の端に戻って参照を続けるので、 あたかもパターン (文様) は切れ目なく無限に並んでいるように見えるのです。 もし一般の画像を転写するのならばこのようにはなりません。 スタンプで描画ツールは参照位置が転写元の画像の端部に達すると変化を止めてしまいます。

スタンプで描画ツールは描画可能なものすべてから、 すなわちレイヤー、 マスク、 チャンネルのいずれからも他の描画対象に転写ができます。 クイックマスクモードにすれば選択マスクからさえも転写ができます。これがもし転写を受ける画像の受けつけないはずの色を転写する場合、 例えばRGBレイヤーからインデックスつきレイヤーやレイヤーマスクへ転写するときには、 その色はできるだけ近い色に転換されます。

3.10.1. 呼び出し方

このツールを起用する方法はつぎのいずれかです。

  • 画像ウィンドウのメニューより ツール描画ツールスタンプで描画

  • ツールボックスのツールアイコン

  • キーボードショートカット C

3.10.2. キー修飾 (初期設定)

描画ツールに共通する修飾キーについては 描画ツール共通のキー修飾 をご覧ください。

Ctrl

このキーは画像を元に転写をするときにその参照位置を定めるのに使います。 パターンを用いる場合には使いません。 画像のどのレイヤーからでも、 それを活性化 (レイヤーダイアログで強調表示される) したうえで、 Ctrl キーを押しながらクリックすれば転写できます。 ツールオプションの 位置合わせなし揃える固定 のいずれかであるならば、 クリックした位置が転写の参照原点です。 この部分の画像情報がスタンプで描画ツールの描線の始めの位置に転写されます。 参照位置を定めるときにはカーソルの姿が網目十字のしるし に変わります。

3.10.3. オプション

図13.74 スタンプで描画ツールのツールオプション

「スタンプで描画」ツールのツールオプション

一般的にはこのツールを起用すると、 そのツールオプションがツールボックスの下に繋げられたウィンドウ上に現れます。 そのようなウィンドウが見あたらないときは、 画像ウィンドウのメニューより ウィンドウドッキング可能なダイアログツールオプション と辿れば今使っているツールのツールオプションウィンドウが開きます。

モード; 不透明度; ブラシ; 拡大・縮小; ブラシ感度の調整; フェードアウト; 揺らぎ; ハードエッジ
描画ツールの全般もしくは大多数に共通するツールオプションについての説明は 描画ツール共通のオプション をご覧ください。
スタンプソース

パターンをスタンプツールで利用

画像

画像から を選んだときはこのツールで描く前に、 転写元となるレイヤーの参照位置を Ctrl キーを押しながらクリックしてGIMPに教えなければなりません。

レイヤー結合色 にチェックを入れておけば、 転写される絵は 見たまま に、 そしてレイヤーが複数ある画像はすべてのレイヤーを通して採られた色を使うようになります。 チェックを外すと、 選択されたレイヤー (活性レイヤー) だけから転写します。 より詳しい情報が、 用語集の レイヤー結合色 の項目にあります。

パターン塗り

パターンの見本をクリックするとパターンダイアログが現れますので、 描くのに使いたいパターンをここで選びます。 このオプションはパターンを利用してスタンプ描画するときにのみ関係します。

位置合わせ

位置合わせのモードはブラシの位置と転写元の参照位置との関係を定めるものです。

この後は、 転写のために採種される元画像とその転写を受ける画像を使った例題です。 (転写を受ける画像は転写元の画像の他のレイヤーでも構いません。)

図13.75 転写の位置合わせのための画像原本

転写の位置合わせのための画像原本

ブラシを最大にして鉛筆で描画ツールを使う。 参照原点は丸に十字で示した。

転写の位置合わせのための画像原本

背景に単色だけ塗られた画像。 これから続けて3度にわたり転写の描画を行う。


なし

このモードでは一筆一筆それぞれが別個のものとして扱われます。 一筆ごとに始めのクリックの位置には参照元の原点から転写されます。 ある描線とその他の描線との間には何の関係もないものとします。 位置合わせをしないモードでは描線を重ねると大抵は不一致が起きます。

下の例図では、 一筆ごとに最初の参照位置が原点に戻っています。 常に同じ部分が転写されます。

図13.76 位置合わせなしの転写

位置合わせ「なし」の転写

揃える

このモードでは描画の最初のクリックの位置に基づき参照原点と転写位置との間合いを測り、 それ以降の描線はすべてその間合いで参照します。 つまり、 描線をどんなに増やしてもそれらは互いにぴたりと噛み合うはずです。

参照原点を変更したいときは Ctrl キーを押しながら新たな原点をクリックします。

下の例図では、 いずれの新たな描線もそれ以前の描線と同じ間合いで参照しています。 すなわち最初の描線以降は転写の間合いを測りません。 それから、 続く描線で参照が元画像からはみ出すと、 画像が途切れてしまいます。

図13.77 位置合わせを揃える転写

位置合わせを「揃える」転写

登録されたもの

登録されたもののモードは他の位置合わせのモードとは異なります。 画像から写し取るときは Ctrl キーを押しながら元画像のレイヤーをクリックして登録します。 すると転写を受けるレイヤーでの描画は元画像の画素と同じ位置で同じ座標の画素が参照されます。 このしくみは同じ画像内のあるレイヤーから他のレイヤーへ転写するのに便利です。 (もちろん画像から他の画像への転写もできます。)

いずれの描線も元画像への参照位置は転写を受けるレイヤー上のマウスポインタの位置に適応します。 次の例図では受け側のレイヤーが元画像よりも小さいので画像は途切れません。

図13.78 登録されたものに位置合わせする転写

「登録されたもの」に位置合わせする転写

値を固定

このモードでの描画は なし モードや 揃える モードとは違って、 線を伸ばしても元画像の原点しか参照しません。 参照点は移動しません。

[次の例図で]元画像の参照点が固定されているのが分かると思います。 同じ小さな判子絵が等しく執拗に繰り返されています。

図13.79 位置を固定した転写

位置を「固定」した転写

3.10.4. さらなる情報

透過効果

スタンプで描画ツールでの透過効果はいくぶん複雑です。 不透明度は転写できません。 透明な画像から転写すると何も描画されません。 不完全透過な画像から転写すると、 元画像の不透明度に従った効果が描画に及びます。 それでは不透明度を 100% としてぼかしなしのブラシを使うとすると、

  • 半透明の黒から白へ転写すると灰色になります。

  • 半透明の黒から黒へ転写すると黒いままです。

  • 半透明の白から白へ転写すると白いままです。

  • 半透明の白から黒へ転写すると灰色になります。

スタンプで描画しても透明度は増しませんが、 レイヤーの透明保護が有効な場合には減少するかもしれません。 不透明な領域から半透明な領域へ転写すると結果は不透明です。 半透明な領域から別の半透明な領域へ転写すれば不透明度が増します。

フィルタブラシ

スタンプで描画ツールには一風変わった方法でもっと強力な効果を引きだす技があります。 その一つがフィルタブラシを作るやり方で、 これはフィルタの効果をブラシで描いてかけるものです。 その方法はまず作業するレイヤーの複製をとり、 コピーの側にフィルタをかけておきます。 それからスタンプで描画ツールを起用して、 オプションはスタンプソースに 画像から を、 位置合わせには 登録したもの を選択しておきます。 Ctrl キーを押しながらレイヤーをクリックして元画像として登録してから、 複製元の画像上で描画します。 ポインタでドラッグしてなぞったところにフィルタのかかった画像が塗られます。

ヒストリー (操作履歴) ブラシ

フィルタブラシによく似た技法を使って Photoshop™ のヒストリーブラシを模倣することもできます。 このブラシは部分選択的に取り消しややり直しをするためのものです。 その方法はまず画像を複製してから、 元の画像で取り消しを繰り返すか操作履歴ダイアログを使って操作履歴の目的の時点に戻ります。 (この工程は元画像でのみできます。 コピーの画像では操作履歴が複製されていないので不可能です。) そうしたらスタンプで描画ツールを起用して、 スタンプソースに 画像から を、 位置合わせには 登録したもの をそれぞれ指定します。いずれかの画像のレイヤーをひとつ Ctrl キーを押しながらクリックして参照元に選び、 もう一方の画像上のレイヤーで描画作業をします。 取り消しブラシになるかやり直しブラシになるかがこの指定で決まります。